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スポーツ医科学レポート

スポーツ心臓
 
宮本洋通(朝日大学 内科)

 長期間にわたる激しい運動をしたスポーツ選手の心臓が大きくなることは今からおよそ百年も前にHenschenという人がスキーのクロス・カントリーの選手で発見しています。その時は打診によっていましたが、その後、X線写真、心電図などの検査法の進歩とともにスポーツ選手には心臓が一般の人よりも大きくなることだけでなく、心臓の規則正しい収縮に異常をきたす不整脈を始めとする心電図における異常がしばしはみられる事もわかってきました。これらの特徴を『スポーツ心臓』とよんでいます。普通、心臓が大きくなったり、心電図の異常を示すことは心臓の疾患の存在によりますが、この『スポーツ心臓』は病的なものではなく、強度のトレーニングに対する適応現象と考えられています。図1に示したようにトレーニングにより心臓に対する負荷が持続し、これによって心臓に器質的変化がおこり、その結果『スポーツ心臓』の所見が出現すると考えられています。またこれらの特徴はスポーツをやめることにより、すみやかに消失することが、一流選手の追跡調査で分かっています。
 『スポーツ心臓』は持久性を要する運動種目の選手に多くみられ、すべての競技選手にみられるものではありません。図2は心臓の容積を競技種目別に比較したものです。これでわかるように『スポーツ心臓』は長距離走、自転車などの運動種目によくみられます。
 運動は動的運動と静的運動の二種類に分けられます。動的運動は筋の等張性収縮を基礎として行われる運動で、持久性トレーニングが中心となり、ランニング、水泳などに代表されます。運動中は、血圧の上昇、心拍数の増加がおこり、心臓から体に送り出される血液量の増加が特徴です。一方、静的運動は筋の等尺性収縮(筋長を変えずに収縮させる)を基礎として行われる運動で、筋力トレーニングが中心となり、重量挙げ、体操、柔道などに代表されます。運動中の血圧上昇が著明で、心拍数も増加しますが、心臓から体に送り出される血液量の増加はそれほど多くありません。このような運動による心臓に及ぼす負荷の違いが運動種目による『スポーツ心臓』の出現の違いの原因になるのです。
 『スポーツ心臓』は高度なトレーニングを積んだ者にのみ出現するものです。われわれの調査によると、トライアスロンやフルマラソン大会に出場し、一日10Km程度のジョギングをしている市民ランナーでは『スポーツ心臓』所見はみられませんでした。
 スポーツ選手は脈拍が遅くなる徐脈の傾向があります。一般人の安静時の一分間の心拍数は60から100が正常とされていますが、よく鍛練された選手の安静時の心拍数は40以下のことがめずらしくありません。ちなみにスポーツ選手の報告された最少心拍数は25です。この徐脈の程度は運動の強度、継続時間と関係し、持久性を要求される競技種目ほど著明であるとされています。また先ほど触れたわれわれの調査でも市民ランナーは一般人に比べると明らかに徐脈の傾向にありました。
 この徐脈は、日常のトレーニングにより、自律神経系の調節機能が変化し、心臓に対して抑制的に作用する迷走神経が緊張状態の傾向になったり心臓に対して促進的に働く交感神経活動の低下、その他の原因が複雑にからみあって関与しているとされています。この状態が徐脈だけでなく、心電図におけるさまざまな異常(表に示しましたように不整脈もスポーツ選手によくみられます)の原因にもなっています。
 最初にも述べましたように一般人では異常とされる心臓の所見がスポーツ選手ではしばしばみられ、多くの場合、病的ではありません。しかし、スポーツ選手だからといって心臓の疾患がないわけではなく、その割合は一般人と変わりません。またその疾患が原因となって突然死をおこすこともあります。特に肥大型心筋症といわれる疾患は心臓の肥大、心電図異常などで、『スポーツ心臓』と似た所見を示し、時に『スポーツ心臓』と誤診されることもあるといいます。定期的なメディカル・チェックを受け、もし、異常が指摘されたら『スポーツ心臓』といって放置せず専門医による精密検査を受ける必要があります。

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