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スポーツ医科学レポート

プライオメトリックトレーニング

杉森 弘幸 
(岐阜大学教育学部)


 競技スポーツのパフォーマンスを向上させることを目的として、さまぎまなトレーニング方法が開発されてきました。近年、わが団でも広く活用されるようになったプライオメトリックトレーニング(「プライオメトリクス」とも呼ぶ)もその一つで、「収縮する前の筋肉を素早く伸張させると、その後により大きな力が発揮される」という生体反応を利用しています。 
 プライオメトリックトレーニングを広義にとらえると、筋力やパワーの養成をねらいとしたトレーニングであるといえますが、特に走・跳・投・打などの「爆発的なパワー」の改善に効果的です。
 表1は、筋の収縮様式とトレーニングの分類を示したものです。筋の長さを変えずに力を出している状態を等尺性収縮(アイソメトリックな収縮)、筋を短くしながら力を出している状態を短縮性収縮(コンセントリックな収縮)、筋を引き伸ばしながら力を出している状態を伸張性収縮(エキセントリックな収縮)といい、基本的に3つの収縮様式に分けることができます。プライオメトリックトレーニングは、素早いエキセントリックな収縮の後にコンセントリックな収縮を行う運動(伸張−短縮サイクル)の改善を目的としたトレーニング方法です。
 陸上競技や体操競技のジャンプ、球技系種目のターンやフェイント、シュートやスパイク、バッティングやスマッシュなどの運動、これらはエキセントリックな収縮とコンセントリックな収縮が一連となり、繰り返し行われています。しかも、瞬間的に大きな力を出すことが求められます。このように、実際のスポーツ活動は、筋収縮の様式からみると、伸張−短縮サイクル運動で成り立っていることが多いのです。したがって、プライオメトリックトレーニングで、爆発的なパワー発揮の能力が図られると、パフォーマンスの著しい向上が期待できるのです。
 ただし、このトレーニングの実施にあたっては、以下の点に留意する必要があります。

@反対方向へ筋が素早く引き伸ばされること
A短縮性収縮への切り換えのタイミングがよいこと
Bその人の身体的能力や運動に適切な負荷を用いること

 これらを考慮してトレーニングが縦続されると、伸張反射機構や弾性エネルギーの貯蔵および再利用など、神経−筋・腱系の調節機構が有効に働き、大きな力の発揮や運動効率の改善などの効果がもたらされるのです。
 プライオメトリクスのトレーニング手段には、デプス(ドロップ)ジャンプ、ハードルジャンプ、バウンディングなど、下肢を中心としたジャンプ系のエクササイズが多く採用されています。現在では、メデイシンボールなどを用いた上肢や体幹の強化も行われており、全面的なトレーニングとして位置づいてきています。
また、各専門種目の技術を用いたプライオメトリックトレーニング(専門的なトレーニング)へと応用されるようになってきました。ただし、膝・腰・肩などへの障害の可能性が高いので、適切なフォームと負荷の設定に十分注意を払う必要があります。
 最後に、高強度で行うプライオメトリックトレーニングは、筋力を基礎とする体づくりをある程度完了してからの方が安全で効果的であるとされています。しかしながら、縄跳びやスキップなど比較的低強度のエクササイズであれば、成長段階にある子供のプライオメトリックトレーニングとして導入することは可能です。また、最近では障害予防のコンディショニングや競技復帰のリハビリテーションプログラムにも取り入れられており、トレーニング条件を考慮すれば、さまぎまな範囲に応用することが可能なトレーニングでもあります。