トップ>スポーツ医科学レポートトップ

スポーツ医科学レポート

暑熱下でのトレーニング

今井 一 
(岐阜大学教育学部)


 

暑熱環境下で行なわれるトレーニングについて大学生の剣道を中心に取り上げ解説します。学生剣道の夏季強化合宿は秋のブロック大会に備え8月中旬から下旬にかけて実施されるのが一般的です。
 これまでに夏季強化合宿に関する研究がいくつか行われています。たとえば気温31〜35℃、湿度51〜64%の環境下で行われた夏季強化合宿では練習前後の水分損失量は1.71〜3.02kg、水分損失率は2.45〜4.36%であったとの報告もあり、夏季強化合宿における水分損失率(体重減少率)は高く、体熱放散が妨げられ、運動遂行能力の低下につながっていることが考えられます。また、生理的指標(心拍数、体重など)を調査した研究では合宿が後半に進むに伴って体重が減少し、加えて疲労が蓄積される傾向が示され、暑熱環境下において練習量が増加するような夏季強化合宿では、特に体重減少や疲労に対する配慮の必要性が報告されています。
 剣道以外のスポーツ種目では、暑熱環境下の運動時における熱中症と競技力低下の予防のために、運動時の水分補給に関して多くの検討が行われています。これらの報告では暑熱環境下における運動時の水分摂取は、運動時の著しい体温上昇を抑え、また脱水による血漿量減少も軽減することが報告されています。
 脱水が1l(増加するごとに直腸温0.3℃、心拍出量は1l/分、心拍数は8bpm上昇するとの報告もあります。体温が過剰に上昇することは、運動機能の低下や熱中症を引き起こすので危険です。そのため暑熱環境下における運動時の水分摂取は非常に重要になってきます。運動時の発汗量は運動前後の体重変化から知ることができます。体重の3%以上の脱水は血漿量を減少させて生体に悪影響を及ぼしますので、強化合宿等の場合は特に練習中に適宜ウォーター・ブレークを設けることが必要です。ただし、大量に発汗した場合は自由飲水をさせても脱水量の40〜60%しか補給できないことが知られています。
 脱水には水欠乏性とナトリウム欠乏性の2つのタイプがあり、実際にはこの2つの混合型が多くみられます。発汗による脱水時(水分とナトリウムの両方が排出されています)に水道水のみを摂取しますと生体はナトリウム欠乏性脱水を防止するために自ら水分摂取を抑制します。その点、スポーツ飲料(ナトリウムが含まれています)を摂取した方が多量に水分を摂取することができます。もちろんナトリウムの補給ができれば水道水で結構です。

 剣道における血漿タンパク質のSH基の含量を調査した研究においては、運動によって産生される活性酸素、フリーラジカルに対して抗酸化作用をもつ血漿タンパク質のSH基の含量は通常の1回の練習前後では変化がみられないものの夏季強化合宿前後では有意に減少しており、合宿時のように繰り返し加わる運動負荷は身体に対して大きな酸化ストレスとなっていることが報告されています。現在我々は運動による酸化ストレスとヒト血清アルブミン(human serum albuminHSA)の酸化・還元状態について研究(医学部第2生理学教室との共同研究)しています。HSAは還元型アルブミンと酸化型アルブミンの混合物で抗酸化物貿の1つです。HSAの酸化・還元状態は生体における酸化ストレスを評価する1つの指標となります。酸化ストレスが加わると還元型アルブミンが減少し、酸化型アルブミンが増加します。
 我々の研究により剣道夏季合宿前後における還元型アルブミンの割合が合宿前に比べ合宿後は有意に減少すること、暑熱環境下(空調設備を使用した場合との比較)ではよりそれが減少すること、抗酸化食品を効果的に摂取することにより、その減少が緩和されること等が判明しています。
 暑熱環境下でのトレーニングでは発汗による脱水時の適切な水分補給、運動と暑熱環境による酸化ストレス増加に対して積極的な抗酸化食品の摂取が重要となります。また、輻射熱環境を考慮した温熱指数であるWBGTwetbulb globe temperature)が熱中症予防の指標として用いられています。日本体育協会による熱中症予防のための運動指針を表1に示します。

 

表1 熱中症予防のための運動指針

運動指針

WBGT(℃)

運動中止:原則として運動中止

   31〜

厳重警戒:激しい運動は中止

28〜31

警   戒:積極的に休息

25〜28

注   意:積極的に水分補給

21〜25

ほぼ安全:適宜水分を補給

 〜21

              (日本体育協会)