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スポーツ医科学レポート
スポーツ医科学に期待すること
藤田隆康(岐阜県立岐南工業高等学校   レスリング部監督)
  スポーツ選手にとって、ケガや病気そしてそれによってもたらされる障害は、避けては通れない問題です。運動機能の向上には、トレーニングによる負荷が欠かせません。競技レベルが高度になるほど、トレーニング強度は上昇し、それに比例して障害の危険性は増加します。つまり、競技者として高いレベルを目指し、真剣に努力するほどケガや病気による傷害を受けやすいと言えます。あるレベルに到達した選手は何らかの傷害を持っていると言っても過言ではないでしょう。
  私自身、選手時代にはケガや病気に繰り返し悩まされました。モスクワオリンピックを目指してトレーニングに明け暮れる毎日のなかで、「つらい」「痛い」と言うことが甘えだと信じ、自信に強度のトレーニングを課した結果、大学4年時にはA型肝炎により二ヶ月に及ぶ長期入院。その一年後には右肩鎖関節脱臼の手術により、一年間試合に出場することができず、さらにその翌年は日本選手権には優勝したものの世界選手権に向けた合宿中に今度は左肩を脱臼し、それを押して練習を続けた結果、「脱臼癖」という障害を得ることとなりました。思い返せば私の選手生活はケガや病気、障害との戦いの日々でした。
  体のあちこちに不安や痛みを抱え、競技自体を諦めようと思ったこともありましたが、それでも競技を続行できたのは、「オリンピック」という大きな目標があったことと、ケガや病気のたびに、治療していただいた先生方から、適切な助言や励ましがあったればこそです。このような体験により、私は「障害からどう立ち直るか」「障害とどうつきあうのか」について有効なアドバイスをいただけるかどうかは、競技人生を左右しうると痛切に感じました。ご存知のようにモスクワオリンピックは幻となり、出場はかないませんでしたが、この教訓は、私にとって大きな財産となっております。
  指導者となった今も、トレーニングや試合中、常にケガや障害の不安を抱えていることに変わりはありません。日本一を目指し、より大きな負荷を課せば、ケガの危険性もどんどん増えます。選手も指導者も不安と悩みを抱えて練習に取り組んでいます。「ケガをしない」工夫を試行錯誤し、綿密な計画を立ててもやはり、ケガ・故障はつきまといます。そしてその障害から立ち直るために多くの時間と努力が必要とされます。そこで私がスポーツ医科学に期待するのは、その不安や恐怖に立ち向かい、うち勝つために、「ケガをしない」ための助言とともに「ケガにうち勝つ」という心身両面にわたる助力をいただくことです。選手は人生をかけて競技に打ち込ん
でおり、その思いが強いほどケガや病気による障害に強い恐怖感を抱いてます。「もう競技がつづけられないのでは」ケガの痛みよりその不安によって追いつめられ、祈るような気持ちで診察に伺うのです。無理なものを「大丈夫」と言ってくださいといっているわけではありません。ただ、障害を抱えたものにどのようにそれを克服すればいいか、どうすればそのハンデをカバーできるのかを適切にご助言願いたいのです。選手にとっては先生方の一言は人生を変えるだけの力を持ったものなのです。次に私の経験の中から、先生方のご助言によって、すばらしい成果を得た例を二つ、挙げさせていただきます。  O君は中学時代より慢性的な腰痛に悩まされ、高校入学後も腰痛を訴え練習を休むことが続きました。競技に対する意欲を失いかけていた彼ですが、整形外科での診察、助言によって意欲を取り戻しました。「君の腰は手術以外では治らない。ただし、今すぐその必要はない。競技生活を終えてから考えなさい。今は怖がらず練習して、痛みがあったら私に相談しなさい。」この一言がO君から過度の不安を取り去り、彼は腰痛が原因で練習を休むことはなくなりました。そして見事全国チャンピオンとなり、大学へ進学し、現在は社会人となりましたが手術を受けることなく過ごしております。
  O君の場合、痛みその物よりも、一向によくならないことによる将来への不安と、練習に対する恐怖が心理的ストレスになっていたと思われます。先生の助言によって「最悪手術をすればよい。」という開き直りができたことで腰痛を克服できたのだと思います。
  今夏の高校総体で、本校レスリング部は学校対抗戦で準優勝、個人戦でも準優勝1名、3位3名という戦前の予想を上回る好成績を収めることができました。これはスポーツ科学トレーニングセンターでの競技力測定結果により選手の状態を的確に把握した上で、筋力アップとバランスの矯正について専門家の適切な指導をいただき、実践したことと、愛知県の中和医療専門学校の先生方による体調のチェック、マッサージを定期的に受けることによって、疲労から来る足・腰等の障害を防ぐことができたおかげです。更に先生方の献身的なお姿が、選手達の気持ちに大きな影響を与えたことも見逃せません。
  その他にも先生方のお力によって得た成果は多く、感謝に堪えません。これから先も多くの場面でスポーツ医科学の先生方にご指導いただくことと思います。その時には、私たちに勇気と力を与えていただきたい。それが指導者として私が望むことです。