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スポーツ医科学レポート
スポーツ医科学に期待するもの〜競技の現場で〜
小栗 和成(岐阜県立土岐商業高等学校   ウエイトリフティング部監督)
  10月15日から18日までの4日間、第55回富山国体ウエイトリフティング競技大会に成年監督として 参加した。昨年の熊本国体の時に、少年77kg級の青木一洋選手が県選手団のアスレティックトレーナーと して参加されていた方に治療を行っていただき、その治療効果がありスナッチの部で優勝することができた。 以前から、試合時や合宿時での選手のケガの対応について、担当コーチが指示を出し、病院や治療院に通わ せる程度しか行うことができなかった我々は、選手のコンディショニングの向上について新たな方法を実行 することにした。それは、専属トレーナーによる患部のケアや選手のパフォーマンス向上を図ることだった。 岐阜県ウエイトリフティング協会の強化委員のメンバーで、アスレティックトレーナーを合宿時や試合時に 同行をお願いしようと相談した。そして、熊本国体で青木選手をケアしていただいた、やまが整形外科の馬 越信行トレーナに依頼したところ快くお引き受けいただき、年間数回の練習時でのケア及び回復方法の指示 と国体の同行を実現することができた。
   国体では、昨年と同様にアスレティックトレーナーの指導及びケアの効果が表れた。その顕著な例が少年 53kg級に出場した徳田選手の例である。徳田選手は、試合の8日前の強化合宿中にスナッチで自己ベス トを狙った際、右肘関節部にケガを負った。肘関節のケガについては、安静にして患部を冷やし、患部に 負荷をかける練習を中止し、火曜日に医師に見せることにした。診断結果は「右肘剥離骨折」だった。通 常であれば国体は出場することはできず棄権させることになる。担当の佐々木少年監督は両親と本人に相 談し、アスレティックトレーナーと監督の判断で試合に参加させることを同意して富山まで選手を連れて 行くことになった。試合の前日、宿舎にて馬越トレーナーのケアを受けた。トレーナーのチェックは次の ようなものであった。
1.右肘内顆周囲の腫れが少ない。
2.圧痛が内側側副靭帯・屈筋群にあり、骨に大してない
3.外反動揺性が認められない(若干痛みはあった)
4.肘の可動域(屈曲・伸展)は正常であった
以上の4点から、完全に競技を断念させる必要もないと判断、右肩・肩甲帯の可動性を向上させそれによ って肘への負担を減少させることによって出場させる方向でコーチ・トレーナーと意見を合わせ、試合中 の痛みにより、途中棄権も考えるということを申し合わせ試合に臨んだ。
  試合では、馬越トレーナーによるストレッチ などによる機能向上を行うケアとともに、選手の状態の把握をコーチ2人で行った。徳田選手の自己ベス トを発揮すればスナッチ競技での入賞も期待できるため、徳田選手の顔色を伺いながら順調にアップを行 った。最終アップも問題なく、第1試技を迎えた。ここで問題になってくるのは精神的な問題であった。 この1回目を失敗すると、限りなく残りの2回目、3回目も失敗する可能性が高いためだ。結果、引き上 げは順調だったが、バーを受ける段階でバーが後ろに流れ失敗した。徳田選手は「やっぱリバーを頭上で 押さえられないかもしれない」とこの後、弱気な発言をする。この段階で、2回目以降の成功の可能性は ほとんどなく思われた。そこで、馬越トレーナーには、精神的な不安を拭うようなマッサージを依頼した。 佐々木コーチは選手にやる気を出させるアドバイスを行うことに没頭した。結果、2回目は失敗したが、 3回目見事に成功し、インターハイの記録を上回ることができた。この時点で8位入賞の可能性もあった が、体重差で惜しくも9位と入賞は逃した。
  今回の経験は、選手やコーチにとって、試合時におけるトレ ーナーの重要性を再認識し、コーチとしての知識の中にトレーナーとして知識をより深めていこうという 意識が協会全体に芽生えた。スポーツ競技のなかでドクターやアスレティックトレーナーの方とコーチが 綿密な関係を持つことによって良い結果を導き出せる例はたくさん増えるだろうと予想される。しかし、 コーチがその有用性を理解し、ドクターやアスレティックトレーナーがその競技を理解しなければ意味を なさない場面が増えてしまうと考えられる。現場の担当者としては、医科学スタッフとのこれまで以上の 交流を望みたい。