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スポーツ医科学レポート
成長期のスポーツ指導(8−4)
加藤義弘(岐阜大学医学部)

  オリンピックやプロ選手の過去の競技成績をみてみると,子供の頃から活躍していた選手もあれば,いわゆる大器晩成型であとになって脚光をあびるようになった選手もいます。どちらのタイプでもその競技を継続できたことが栄光をつかんだ最大の要因と言っても過言ではありません。どれだけ才能のある選手でも継続できなければ栄光を勝ち取ることはできません。限りない可能性を秘めた子供たちが,スポーツを始め,選手として活躍するために継続することが大切です。そのためには本人の努力や家族の協力だけでなく,成長期の選手を指導する大人の役割も重要になります。
  現在の子供をとりまくスポーツ環境は,スポーツ少年団や学校でのクラブ活動などの組織化された集団での活動が多くなっています。それぞれの集団では子供達は一つのチームとして指導されています。成長期の子供に対するスポーツ指導は,個人個人の発育・発達に応じて行わなければなりません。このことを考慮に入れないトレーニングは効果も少ないばかりではなく,スポーツ傷害の発生の危険も大きくなります。
  子供の発育・発達については“スキャモンの発育曲線”(図1)がよく知られています。成長発育を20歳のレベルを100%として考え、各体組織の発育の特徴を
1)一般型
2)神経系型
3)リンパ系型
4)生殖器系型
の4つのパターンに分けています。一般型には骨格筋や心筋など一般的な臓器がはいります。幼児期に発育したあと学童期には発育は緩やかになります。思春期以降に再び発育のスパートがみられ大人のレベルに達します。脳や末梢神経系の発育がこのパターンになります。リンパ系型は扁桃、リンパ節などのリンパ組織(免疫を担当する)の発達です。学童期にかけて成長し、大人のレベルを超えますが、思春期すぎから大人のレベルに戻ります。学童期に扁桃肥大が多いのもこのためです。男性ホルモンや女性ホルモンなどの性ホルモンの分泌も多くなります。
  この発育曲線を参考に成長期の子供達の運動は、3つの時期に分けて考えられています。まず、神経系の発育が著しい小学生の時期には「基本的な運動動作の習得」を目標にトレーニングします。つまり、さまざまな運動や競技を体験させ「動きをつくる」ことが大切です。

また、この頃はスポーツとの出会いの時期でもあり、気軽に参加でき、楽しく運動できるような配慮が必要となります。中学生の時期は主に呼吸・循環器系の発育がさかんになります。この時期には「持久力をつけること」を目標にします。つまり有酸素運動を十分に行い「ねばり強くなること」が大切です。この頃には専門種目が決定することが多く、それによりトレーニング内容も変化していきます。15歳から18歳は生殖器系の発育が著しく性ホルモンによる男女差がはっきりしてきます。特に男性では男性ホルモンによる骨格筋の発育が著しい時期です。また、この頃から女性では貧血などの問題も多くなってきます。この時期には「力強くなること」を目標とし筋力トレーニング等を行います。競技種目もより専門的となり、競技選手を目指す時期でもあります。
  以上はあくまでも一般論であり、子供の発育には大きな個人差があることを念頭に置き、個人に適した指導を考えなければなりません。また、成長期には特有の内科的、整形外科的な疾患があります。痛みや体調不良の訴えがある時には、すみやかに専門医を受診し相談することも重要です。
  そして最後に何よりも大切なことは、長く続けられる環境を整えてあげることです。そのためにはトレーニング内容だけでなく、子供の心を大切にし、子供達が理解できる指導をし、楽しくスポーツをさせることが大切です。成長期の子供達のスポーツ指導は何かと苦労が多いと思います。しかし時として、大人ではみられないような成長をみることができます。そのような時が指導者として最高の喜びを感じるときではないでしょうか。