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スポーツ医科学レポート
膝のスポーツ傷害
喜久生 明男(きくいけ整形外科)
  膝は身体を支え,方向転換,加速,ブレーキ,サスペンションの機能を行うため,スポーツ傷害(外傷と障害)が多く発生する。筆者の部位別障害統計では膝19%,足関節11%,腰10%の順に多い。
  膝の障害は膝蓋骨軟化症25%,オスグッド病19%,ジャンパー膝14%など膝の全面に痛みを生じる,膝進展機構(大腿四頭筋)の障害が58%を占め,次いで膝の外側,やや後方が痛む腸脛靱帯摩擦症候群(ランナー膝),不安定膝(動揺膝)と続く。動揺性には前後の十字靱帯や内外の側副靱帯だけでなく,下腿外旋過多による回旋不安定膝もある。膝の内側,やや後下方で痛む鵞足炎である。
  障害の原因は筋の拘縮(タイトネス)が39%,次いで,使い過ぎが約30%であった。その他,動揺性7%,O脚,X脚,Q角以上などのアライメント異常(malalignment)が6%であった。筋のタイトネスはストレッチにより軽快するため,身体の手入れをしっかりすれば,障害はかなり防げると考えられる。
  膝蓋骨軟化症は膝蓋骨(膝のお皿)を押さえると痛みがあり,膝の屈伸やジャンプをする人に起こり易い。女性では大腿骨膝蓋窩の形成不全や膝蓋靱帯と大腿骨の角度(Q角)が大きいことが関係している。膝を30度以上曲げない(30度以上曲げると膝蓋骨の大腿骨への圧迫力が増し,痛みが軽減しない)で大腿四頭筋の筋力強化を行うことはアライメント矯正に役立つ。
  オスグット病は発育期の特徴的な障害の1つで,12〜13歳の男子によくみられる。成長期の脛骨粗面は骨端線(軟骨)が存在し,強い膝蓋靱帯の牽引により軟骨部位で持ち上がったり,この部位に炎症が生じ,靱帯内外に骨化を誘発し,脛骨粗面が突出し痛みなどを生じる。
  ジャンパー膝はジャンプの繰り返しやランニングの多いスポーツにみられる膝蓋靱帯炎であり,ジャンプと着地のショック吸収時に,この部位にストレスが集中するのが原因で,骨端線が閉鎖されると膝蓋靱帯にストレスが集中してジャンパー膝になる。
  離断性骨軟骨炎は関節内の大腿骨の内顆に起こる,野球肘と同じ関節面での関節軟骨とその下の骨が一塊となった疲労骨折であり,発育期の不定な膝痛はこの疾患を疑う必要がある。早く発見出来ればスポーツの制限で治癒することがあるが,発見が遅れると遊離体(関節鼠ともいう)となって関節鏡や手術で摘出する必要が出てくる。レントゲン(X線)やMRI(核磁気共鳴撮影:磁場で作る画像)などで診断される。
  外傷では骨折や靱帯損傷,捻挫,半月断裂などがあるが,特に靱帯損傷は正しい診断が困難であり,見逃されることが多い。正しい診断には整形外科専門医への受診が何よりも大切である。靱帯損傷で膝の動揺性を生じていれば,スポーツ種目,年齢,競技レベルによって切れた靱帯を縫ったり,靱帯を作り直す(再建術)手術を積極的に行うこともある。靱帯再建も半月断裂も手術侵襲の軽微な関節鏡で行えるようになり,リハビリも早期から開始でき,競技復帰が早くなった。
  スポーツ傷害の治療において,最も大切なことは如何なる治療方法が取られようが,治療する側,治療される側の双方が傷害に対して,出来るだけ早くリハビリを開始し,筋力と関節の柔軟性(関節の動き)の維持・回復への努力を行うことである。傷害を経験した選手が,いつまでも筋力の低下したままで,競技復帰が出来ないことの無いようにしなければならない。