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スポーツ医科学レポート
ドーピング
牧野 和彦(岐阜医療技術短大)
  IOC(国際オリンピック委員会)医事委員会により、ドーピングとは「スポーツおよび医・科学の倫理に反するもの」と定義され、@指定された薬物分類に属する物質(使用が禁止されている物質)を投与することのみならず、Aいろいろなドーピング行為も禁止しています。すなわち血液ドーピングや検査をごまかすさまざまな操作もドーピングと判断されます()。
  ドーピングという言葉は、南アフリカ共和国の原住民カフィール族が、地元の強い酒(dope)を飲んで、士気を高めるために使用していたことから、始まったとされています。スポーツの世界では、古代ローマのオリンピアでの二輪馬車競技の競走馬に、蜂蜜液を与えて走らせていました。
  19世紀になって、それまで競技馬や競争犬に使われていたdopeが、次第に勝つための一手段としてスポーツ選手にも使われるようになってきました。
  その後20世紀になって、医学や薬学などの科学の進歩に伴い、ドーピングに使われる物質の種類も増え、方法も複雑・巧妙になってきました。また金メダルを取ることが名声だけでなく、金銭的にもより大きな価値を持つようになり、そのような社会的背景もドーピングが後をたたない理由の1つです。
  それでは、「ドーピングはなぜいけない」のでしょうか。第一の理由は「フェアプレーの精神に反する」からです。スポーツをする理由はいろいろありますが、その基礎には「一定のルールのもとにフェアに競い合う」という大前提があります。ルールが違えば試合になりません。単なる争い事になってしまいます。
  さらに重要なことは「ドーピング選手は健康を害することがある」からです。
  禁止薬物の第1に記載された興奮剤は、中枢神経を刺激して敏捷性を高め、疲労感を軽くし、競争心を強める作用を持ちますが、時に正常な判断力を失わせることがあります。
  特にコカインやアンフェタミンなどは非常に危険な薬物であり、一般社会でも多くの問題を引き起こし、覚醒剤取締法で厳しく規制されています。
  エフェドリンも交感神経興奮作用を持つアミンですが、市販のかぜ薬や漢方薬に含まれていることがあり注意が必要です。
  麻薬性鎮痙剤は多幸感や無敵感をもたらし、競技に伴う心身の苦痛を軽減させますが、習慣性を生みやすく、やめることができなくなります。いわゆる麻薬取締法で規制されている薬物ですが、海外の市販のかぜ薬にも含まれていることがあります。
    タンパク同化ホルモンは筋肉の発達を促し、闘争心を高める作用がありますが、肝臓障害、高血圧、こう丸萎縮、女性の男性化、無月経などをきたします。デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)や大リーガーのマグワイアが使用して有名になったアンドロステンダイオンは栄養補助食品としてアメリカで販売されており、通信販売や個人輸入などにより手に入れる例も見られるようです。
  利尿剤は急激な減量をするために用いたり,尿量を多くしてドーピング禁止物質の尿中の濃度を薄くし,検査を逃れるために用いられることがありますが,循環系や水分・電解質代謝に大きな影響を及ぼしますので,医師の許可なく使用することは大変危険です。
  その他,全身持久力を高める目的で,赤血球の合成を促進させるエリスロポエチンが用いられたり,さまざまなホルモンが使用されていますが,いずれも禁止されています。
  ドーピング検査は不正行為を行った選手を摘発するためだけに行われるのではありません。選手自身の健康のため,またドーピングをしていない人の権利を守るために行われるのです。
  今後は大きな国際大会だけでなく,国内におけるいろいろな競技会や国体においてもドーピング検査が行われるようになります。いつ検査の対象になってもいいように準備しておく必要があります。
  日本選手のドーピング事例として自分は違反する意志がないのに,漢方薬,かぜ薬,ドリンク剤や栄養補助食品の中に入っていて知らずに飲んでしまったということがよくあります。日頃から使用する薬の正しい知識を得ておくことが重要です。