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スポーツ医科学レポート

動きを科学してみよう−ボウリングを例に−

山本 英弘(朝日大学法学部)
1.はじめに
  「動き」を科学する分野には「スポーツ・バイオメカニクス(スポーツ生体力学)」があります。この分野は、運動力学や運動生理学などの知識を用いて動きの仕組みを明らかにすることを目的としています。また、「スポーツ・バイオメカニクス」は大別すると、フォームや動きを探る「動作学的アプローチ」と力や速度から力学的に動きを探る「動作力学的アプローチ」の2つのアプローチの仕方があります。このようにして得られた結果は、技術の修得や指導に役立てられています。しかしながら、解析装置が高価であったり分析手法が複雑であったりするため、選手や指導者にとっては「興味はあるが自分自身で取り組みにくい」分野でもあります。
  そこで、バイオメカニクス情報が、競技力向上や指導に役立てられることを期待し、筆者が過去に行ったボウリングについて実験の結果を紹介してみたいと思います。

2.動作学(Kinematics)的アプローチ
  投球フォームから技術の優劣を検討するために、アプローチ(構えてからリリースするまで)におけるボールの軌跡の再現性を見た結果が図1です。この結果は、ボウラーの右側方に16mm高速度カメラを固定し、毎秒50コマで撮影した映像からボールの中心点のみをプロットして求めました。10ピンセットされた状態の投球を5回行わせ、重ね画きした結果です。
  この図から、熟練者のボールの軌跡の再現性が未熟練者に比較してとても高いことが分かります。ここではボールの軌跡のみを示しましたが、身体各部(頭頂,肩,ひざなど)の移動の軌跡においても同様の結果でした。上向き矢印(↑)で示したリリース位置についても,熟練者の再現性の高さが伺われます。さらにこの図はもう1点興味深い結果を示しています。熟練者の男女に注目してください。熟練者女子は,胸の前にボールを構えてアドレスをはじめ,ボールを後方に高く振り上げ,肩を支点とした振り子のように滑らかな投球をしていることが分かります。これは大きく後方へ振り上げたボールの位置のエネルギーを利用してボールの速度を得ようとする投球といえます。アプローチも自然に歩くような速度で行うことができ,リリース時にボールを投げるという意識もない無理もない投球方法といえます。一方,熟練者男子はアプローチにおいてボールを後方へ高く振り上げる投法ではなく,小走りに近いアプローチによってボウラー自身の前方への移動速度を利用してボールスピードを得る投法でした。このように同じ投法でも異なった手法があることを示した結果であります。

3.運動力学(Kinetics)的アプローチ
  リリースの際に軸足にはどれほどの力がかかっているのか調べた結果が図2です。本来,力の測定には圧力版を用いることが多いのですが,ボウリング場に圧力版を埋設することができないため,ビデオ映像から算出した結果です。被験者は全日本ナショナルチームのメンバーで男子7名,女子10名の計17名でした。
  図2は,軸足にかかった力を相対的に比較するために体重比で求め,男子,女子および全体の平均値と標準偏差で示しました。この結果,男女間に有意な差が認められなかったため,以下は全体の結果で示しています。リリース時の軸足にかかる力(合力)は体重の2.58±0.24倍(床面から63.3±5.5度の方向に)であることが分かりました。この値は「ゆっくりとジョギング(2.53倍)」(Miller)に相当


します。また,成分に分けると水平方向では1.16±0.23倍,鉛直方向では2.29±0.21倍でした。ちなみに,「歩行時には水平方向には体重の0.2倍,鉛直方向には1.2倍」(Inman)の力がかかるといわれています。
以上のことから,ボウリングはアプローチでもっとも大きな力がかかるリリース時の軸足でさえ,ゆっくりとしたジョギング程度の力しかかからず,あとは歩行と投球間の座位から成り立つスポーツであることから,強い力を必要としないスポーツであることが伺えます。それゆえ,老若男女が楽しめるスポーツの1つであるといえるでしょう。

4.おわりに
  以上ボウリングを例に「動き」を科学してみましたが,精度を求めなければ決して難しい測定ではありません。例えば,従来の練習や指導でビデオを活用していたならば,以後,撮影に際して以下の点を考慮することにより科学(2次元処理)できます。@撮影方向を規定(プレーする方向に対して直角に)。A基準を映しこむ(垂直or水平,スケール)。このようにして撮影されたものをプリントアウトし,トレーシングペーパー等にトレースすればよいのです。プリンターがなければモニターにトレーシングペーパーを当ててトレースすることもできます。また、B撮影距離と画面のサイズ(ズームによって調整)を規定。異なった日の結果と比較でき練習効果などもチェックできます。さらに、ビデオのコマ間隔は30分の1秒ですから(60分の1秒の場合もあり)、速度や力など力学的な処理も可能になります。
  従来のように、ただ映像を「見る・見せる」指導もありますが、それを図や数値に置き換えることによりさらに指導の効果があがると思います。
 一度、「動き」を科学してみませんか。