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スポーツ医科学レポート  NO.14-3
3.スポーツによる『腰の傷害』
細江 英夫
(岐阜大学整形外科)

 スポーツに関連した「腰の傷害(外傷と障害)」には、外傷としての腰部打撲、腰椎捻挫、骨折、脱臼骨折や、障害としての腰椎椎間板障害、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎分離症などがある。1回の大きな外力が原因の場合は外傷で、繰り返される慢性的刺激が原因の場合は障害である。解剖学的に腰に関連する組織は、@脊椎(骨)、A椎間板(軟骨)、B椎間関節(骨、軟骨、関節包)、C神経系(脊髄、馬尾、神経根、末梢神経)、D靭帯(棘上、棘間、黄色、後縦、前縦)、E筋・筋膜などである。それらの異常が神経系を刺激し疼痛を感じる。
 主な傷害について述べる。

T.腰部打撲
 損傷された組織が少ないため、いずれにせよ自然に軽快する。二次損傷(内出血の拡大、腫脹の増悪→疼痛増強)を防ぐための安静、冷却、圧迫など行ったほうがよいことは足関節の捻挫と同様である。

U.腰椎捻挫
 これには軽症から重症まである。関節や椎間板がどの程度まで損傷されたかにより、治癒に要する期間が異なる(数日〜数週間)。この中には、椎間板損傷から椎間板ヘルニアに移行する場合も存在し、その場合には数ヶ月に及ぶ可能性もある。損傷程度によるところが大きいが、初期治療(安静、固定など)を適切に行い損傷の拡大を防ぐのは重要である。

V.筋・筋膜損傷
 打撲と重なる部分がある。筋挫傷、筋肉内血腫、肉離れ、筋断裂などがある。急に過剰な収縮力、圧迫力が加わった際に生じる。ダッシュ、ヘディングで反った時、重量物をもった時、タックルを受けた時などである。初期治療は、打撲と同様である。

W.腰椎椎間板障害
 ヘルニアも含め、椎間板の異常の総称である。腰痛の最大の原因である。1回の外傷で生じる場合もあるが、慢性刺激で徐々に起こる場合が多い。MRI検査で椎間板の輝度が変化する。

X.腰椎椎間板ヘルニア
 椎間板障害の1つである。椎間板の外層を形成する線維輪に亀裂が入り、内層である髄核が亀裂を通り外に飛び出てくる現象をいう。通常、そこには神経根、馬尾といった神経があるため、神経症状(腰痛、下肢痛、下肢のしびれ、下肢麻痺、膀胱麻痺)を呈する。いわゆる坐骨神経痛の9割の原因がこれである。以前は、絶対安静が重要視されていたが、現在は症状に合わせ多少動いてもいいと治療法も変化してきている(EBM:科学的根拠にもとづいた医療)。神経根の炎症の程度により、軽い下肢のしびれ程度〜激しい腰痛下肢痛で全く動けないまで幅広い。7割は自然軽快していく。3割は治療が必要である。結局1割が、よくならない、あるいは症状が激烈、下肢や膀胱の麻痺が急速に進行が理由で手術になる。最近、ほとんど切らずにレーザーを椎間板に挿入したプローベから照射する治療がマスコミで取り上げられた。この治療は最初は脊椎外科専門医が適応を限り行っていたが、腰痛患者を診ていない、手術経験のない、麻酔科、放射線科、一般外科医が参入し適応が拡大され行われるようになり、社会問題となっている。適応を厳密に限定すれば、保険は効かないがよい治療法であることも事実である。

Y.腰椎分離症
 分離症は第5腰椎に多い。先天的な要因のこともあるが、スポーツに関連した疲労骨折とされている。骨が未成熟な成長期に生じるとされ、小さな外力が慢性的に繰り返し加わることで骨に第5腰椎の関節突起間部という所に亀裂が入るものである。分離症そのものは数%の人に認め珍しいものではなく多くは無症状で、症状を呈するのは一部である。腰痛が主で、下肢症状を呈することもある。治療は、初期であればギプスやコルセットなど外固定で通常の骨折のように骨癒合を得ることができる。慢性期になり分離部に硬化像を認めると外固定のみでは骨癒合を得ることはできないため、分離部を削り同部に骨移植をしワイヤーで固定する(分離部修復術)。さらに進行すると椎間板変性が進み分離部が離れ、第5腰椎が骨盤(仙骨)に対し前方にずれていく(すべり症)。この場合には、脊椎固定術(椎体間固定術)を行う。手術により1年後にスポーツに復帰可能である。

Z.骨折、脱臼骨折
 最近、ウィンタースポーツとしてスノーボードが盛んである。特にジャンプ種目において高所から転落するのと同様、脊椎に圧迫力、屈曲力、剪断力などがかかり胸腰椎移行部で、破裂骨折、脱臼骨折をきたすことがある。多くはさまざまな程度の脊髄損傷、馬尾損傷を伴う。早期に脊椎外科専門医(日本整形外科学会)、脊椎脊髄外科指導医(日本脊椎脊髄病学会)などの専門医にかかる必要がある。

ま と め
 腰痛は、総合病院外来患者における症状の第1位を占める。腰椎はスポーツにおいても頚椎と同様に傷めやすい部位である。ほとんどのものが自然軽快するが、適切な診断・治療により永久的な神経障害(後遺症)が残ることがないようにしなければいけない。

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