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 スポーツ医科学レポート NO.13-3

3.フェンシング競技の科学的サポートの試み

      内藤  譲(岐阜県スポーツ科学トレーニングセンター)
      山本 英弘(朝日大学)

 
 
岐阜県は、全国的に見てフェンシング競技の盛んな県です。選手層はジュニアから一般選手まで幅広く、そのレベルも全国大会やオリンピック、世界選手権出場選手と全国トップレベルです。しかし、これだけの選手層でありながら科学的なサポートはあまり行われてきませんでした。特に、動きの解析に関して岐阜県はもとより全国的にもほとんど見られません。
 フェンシング競技が動きの面からあまりアプローチされなかった原因としては、フェンシング競技が対人競技であるため、戦術の指導が重視されてきたからだと考えます。しかし、いくら対人競技であるといっても基礎的な動きや体力がある程度備わっていないと、大きな試合で満足な結果を得ることはできません。特に、フェンシング競技では、剣先を相手の有効面にいかに素早く突くかが最大のポイントとなるため、相手選手の間合いに素早く飛び込むための脚力に加え、地面を蹴った力を無駄なく剣先の速度に伝える技術が必要となります。つまり、駆け引きを除けば、瞬発力と効率のよい動きが要求されます。
 このようなフェンシングの競技特性を踏まえた上で、一流選手はいったい「どのような動きをしているのか?」または「どのような体力なのか?」ということに関心が持たれます。そこで、このような疑問に対して、現在一流フェンシング選手を対象として取り組んでいる科学的サポートの内容の一部を紹介したいと思います。


一流選手の動き及び体力の特徴
(学生選手と比較して)
 測定では、オリンピック、世界選手権大会に出場経験のある選手2名(一流A:女性、一流B:男性)を一流選手とし、13名の学生選手を比較対象選手としました。
 全選手、各自の間合い(的と自分の距離)からシグナルの合図によって全力でファント(突き)動作を行いました。このときの動きをハイスピードビデオカメラで撮影し、剣先の動きについて分析しました。また、蹴り脚(後ろ脚)の動きを観察するために股関節と膝関節にゴニオメータ(関節角度計測器)を装着し、各関節の伸展時における角速度を求めました(図1)。

 上記の測定と合わせて、各選手の体力的な特徴をみるために、等速性動的筋力測定機器を用いて股関節と膝関節の筋力を測定しました。

【剣先の動き】
 剣先の速度は、一流選手が学生選手に比べておよそ1.44倍高い値を示す傾向にありました(一流選手平均4.9m/s、学生選手平均3.4m/s)。
 次に、剣先が的を突くまでの動きを一流選手と学生選手とで比較してみると、図2で分かるように一流選手は速度波形が一つのピークであり、一気に的を突いていることが分かります。これに対して、学生選手では二つのピークがあり、二段階モーションで的をついていることが分かります。

【蹴り脚(後ろ脚)の動き】
 蹴り脚の膝関節を伸展(膝を伸ばす)させるときの角速度は、一流選手Aが特に高い値(527.5deg/s)を示したものの、一流選手と学生選手との間に一定の傾向は見られませんでした。一方、股関節の伸展角速度の値では、膝関節同様、一流Aが最も高い値(287.4deg/s)を示しました。しかし股関節の傾向として、女性選手では一流選手の方が伸展速度の値が高い値を示し、男性選手では、学生選手の方が高い値を示す傾向にありました。

【脚の筋力】
 股関節と膝関節を伸展させるときの筋力は、一流Bが特に高い値を示し、全体的に見ても一流選手の方が学生選手に比べて大きな値を示す傾向にありました。

【ファント動作の特徴】
 上記の結果と撮影した映像から、一流選手と学生選手(二段階モーションの見られる選手)の動きの特徴をまとめてみました(図3)。
 一流Aは、局面1で上体の倒しこみとリード脚(先導脚)の振り上げで前方への勢いをつけていました。局面2において、蹴り脚の筋力を十分に活かした素早い股関節@と膝関節Aの伸展動作を伴って、一気に肘Bの伸展を行っていました。
 また、一流Bは、局面1で股関節@の伸展筋力を活かし前方へ身体を移動させ、局面2で膝関節Aの伸展とともに肘Bの伸展を行っていました。
 一流選手の共通動作として、動き始めは積極的に身体を前方へ移動させる動作が行われ、腕の伸展は脚の伸展と連鎖して行われているということでした。

 一方、二段階モーションの見られた学生選手は、局面1では身体の前方への移動は少なく、リード脚の振り上げとともに肘Bの伸展動作が行われていました。局面2では、腕を伸展した状態を保ったまま突き動作を行っていました。学生選手の多くが一流選手に比べて剣先の最大速度が遅かった理由として、このような動作の違いが原因であると考えられます。
 ところで、基本動作としては学生選手の動きが正しいのかもしれません。一流選手の動きは、彼らの数多くの実践を通して習得した実践に即した動き(応用動作)であるとも考えられます。

【最後に】
 フェンシングに限らずスポーツの科学的サポートは、一流選手(熟練者)とそうでない選手(未熟練者)の技術や体力を比較し、一流選手の特徴を明らかにすることから始まります。今回はその一例ということで紹介しました。本リポートが選手・指導者の皆さんの一助となれば幸いです。

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