トップ>スポーツ医科学レポートトップ

スポーツ医科学レポートトップ

スポーツ医科学レポート NO.12

2.運動と腎臓への影響
(腎機能と尿の色調異常)

    水谷 大裕
(水谷医院)


【はじめに】
 
腎臓は腰の高さに左右
1個ずつあり、重さは体重の0.5%以下(1150g)にすぎませんが、心拍出量の約25%に相当する1300ml/分の血液が流れており(腎血流量RBF)、単位面積あたり体内で最も血液量の多い臓器です。その機能は、1.水・電解質のバランス調節、2.老廃物の排泄、3.血圧の調節、4.各種ホルモン分泌など、身体の内部環境を一定に保つ働きをしています。腎臓病の方はその治療において様々な運動や食事(特に蛋白質)制限が行われており、ある意味で“運動すること”は腎機能面からはマイナス要因となっています。また、激しい運動後に血尿や蛋白尿が出ることはよくあり、放置していてもほとんどの場合問題がないのも事実です。

【運動と腎機能】
 
腎機能は、前述した腎血流量
RBFと腎・糸球体で原尿を作り出す量・糸球体濾過量GFR、更に腎・尿細管での再吸収と分泌により発揮されます。特にRBFGFRが運動時において影響を受けるといわれています。RBFは、最大運動では安静時に比べ約50%減少し、半分の運動強度でも40%低下します。これは運動時には筋肉・肺・心臓への血液分配率が高まるためだと考えられています。しかし、RBFの低下は長くは続かず、運動終了後1時間以内に運動前の99%のレベルにまで回復します。一方、GFRは最大運動で45%低下するものの、軽〜中等度ではほとんど変化せず、逆に20%上昇するとの報告もあります。即ち、運動により一時的に腎機能は悪化しますが、終了とともに速やかに回復するというわけです。また、運動時に良く見られる蛋白尿は、何とか腎臓の働きを保とうとする過応答が一因となっています。
【運動後の着色尿】
 
激しい運動後に認められる黄褐色〜淡赤色〜暗褐色の着色尿は、尿の濃縮・ミオグロビン尿・ヘモグロビン尿・血尿などが原因です。

A.ミオグロビン尿:激しい運動で筋肉の障害が起こると、ミオグロビンが筋細胞外に逸脱し、血中に流出、腎を経て尿中に排泄されます。マラソンなどの長距離走や様々な運動で認められます。脱水や、炎暑・寒冷、運動の未熟練が誘発因子となります。自覚症状としては、運動後の着色尿の出現とともに四肢、腹部の筋肉痛や全身倦怠感を訴えます。この劇症型・進行型がいわゆる横紋筋融解症であり、急性腎不全に移行(37%)することがあります。最近では、阪神・淡路大震災後のcrush syn.が特に問題になりました(この場合は運動による筋肉崩壊ではなくて外傷に由来)。
B.ヘモグロビン尿:特に剣道での報告が圧倒的に多く、“打ち込み”動作により、踵、足底にかかる物理的衝撃が、血管内の赤血球を破壊し、ヘモグロビンが尿へ排泄されます。古くは軍隊の行進の後に見られたことより、行軍血色素尿症といわれました。サポーターなどの着用により機械的刺激を軽減することで回避することが可能です。
C.血尿(肉眼的血尿):尿1Lに血液が1ml混入すると目で見て血尿とわかります。このなかには腎外傷(腎挫傷〜腎破裂と程度は様々)に伴うものもあり、背部痛などの症状に注意が必要となる場合があります。
 これらの着色尿は、ほとんどが運動後の休息と十分な水分補給で、翌日か、遅くとも数日以内に軽快し、腎機能障害をきたすことはまれですが、運動後に尿色調異常を呈する場合は、必ずその原因を検索し、腎機能への影響を確認しておくことが重要です。
【その他の尿異常】
 
その他、運動後に尿検査(テープを用いる定性試験や顕微鏡による検査)を行うと、血尿(顕微鏡学的血尿)や蛋白尿、ケトン体、各種の円柱が確認されることがありますが、ほとんど一過性で問題になることは稀です。
【検尿の勧め】
 以上により、健常者においては、運動により一過性に腎臓に負担がかかるもののほとんどが問題にはなりません。しかしながら運動自体は先にも述べたように腎に対してはマイナスの要因であり、まだ多くの運動選手が積極的に蛋白質を摂取していることも腎には負担となることから、潜在的に腎疾患がある場合には、運動により顕在化しり、腎機能が悪化し、重篤となる場合があります。学校・職場検尿の普及により、腎疾患の早期診断は、かなりなされるようにはなりましたが、これらを防ぐために、定期的な尿検査が必要と思われます(ただし、この時、尿のサンプリング条件が統一されているーできれば安静時の尿であることが重要であることは言うまでもありませんが)。

【まとめ】
 今回は特に腎循環動態を中心に、運動の腎臓への影響を概説しました。腎臓の働きには、前述したごとく、水・電解質の調節や、血圧調節(レニンーアンギオテンシン系)もあり、これらもまた、運動により様々に影響しあっています。運動の腎機能への影響に対する理解を深め、広く、運動のパフォーマンスを高めるための基礎知識となれば幸いです。

pagetop.gif (1735 バイト)