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スポーツ医科学レポート NO.12

1.手の障害

    大野 義幸
(岐阜大学整形外科)

 スポーツに関連した手の外傷、障害の頻度は高く、疼痛、変形、腫れなどの症状が軽い場合は捻挫、突き指などと安易に考えて放置、あるいは十分な治療がなされていないことが多くみられます。脱臼、亜脱臼であっても容易に整復できた場合は放置されがちです。本稿では初期には比較的症状が軽く、安易に自己治療され、後になって障害を残すことが多いものを中心に述べます。

1.軟部組織損傷(いわゆる捻挫)
 靭帯、半月、関節包、腱などの軟部組織の部分的な損傷が本来の捻挫です。従来、レントゲン検査にて骨折や脱臼を認めないものは単なる捻挫としてその治療が軽視されてきました。確かに数週間の安静、固定にて治癒するものもありますが、不十分な固定、その後の不適切なリハビリによっては部分的な損傷が完全な断裂に進展したり、実は当初より完全な断裂であり、手術以外の治療ではその治療成績に限界がある場合もあります。いずれの場合も初期に適切な治療を行わないと後に不安定性を残し、痛みや力が入らないといった症状が持続することになります。以下に代表的なものを列挙します。
・手根不安定症(図1):手関節部の計8個存在する手根骨のそれぞれを連結する靭帯が断裂あるいは弛緩して発生します。通常のレントゲン検査だけでは見のがされることが多く、詳細な診察、各種ストレス撮影や関節造影などを行って診断します。
・手指の各関節の側副靭帯損傷:主に側方への安定性を司る靭帯で、脱臼時あるいは脱臼までに至らずとも断裂し、初期に適切な治療を行わないと後に側方へ指が曲がる、力が入らないといった不安定性を残します。
・ゲームキーパー母指(スキーヤー母指):母指第2関節の尺側の側副靭帯が断裂するものです。完全断裂がある場合はギブス固定を行っても治癒せず、最初から手術が必要になる場合があります。
・三角線維軟骨複合体損傷(図1):手関節の尺側(小指側)に存在する、膝の半月版に相当する軟骨組織の損傷です。手関節痛やひっかかるような感じといった症状を呈します。内視鏡視下に縫合したり、切除したりします。
・習慣性伸筋腱脱臼:伸筋腱に対する小外傷をきっかけに手関節背側では尺側手根伸筋腱が、指の付け根の関節背側では指への伸筋腱が側方に脱臼し、関節の運動と共に脱臼、整復をくり返すため、痛みやひっかかるような症状が持続します。指の付け根の関節背側での伸筋腱装置の損傷をボクサーズナックルとも呼びます。
 その他、各種腱鞘炎ではスポーツ活動と共に症状が増悪します。
2.関節部骨折
 関節部の骨折では骨片が小さかったり、転位(ずれ)が少ない場合は変形もなく、腫れや痛みなどの症状も比較的軽いものです。早期に適切な治療を行わないと転位が増強し、後に大きな障害を残す場合があります。
・前腕骨遠位端骨折:大部分が転倒の際、手をついて発生します。早期なら多くは徒手整復、ギブス固定で治療が可能です。関節内にまで骨折線が及ぶ場合や良好な整復位が得られない場合には手術が必要です。
・手根骨骨折:前腕骨遠位端骨折と同様に転倒の際に手をついたり、直接殴打して発生します。痛みなどの症状は比較的軽く、レントゲンでも写りにくく診断に難渋します。舟状骨、有鉤骨鉤、豆状骨、月状骨、三角骨、有頭骨などが骨折します。見のがさないためには詳細な診察が必要で、特殊撮影、CT検査を駆使して診断します。舟状骨、有鉤骨鉤、月状骨骨折は骨治癒しにくく、偽関節となり永久的に症状を残す場合も多い骨折です。最近では発見し次第手術を行う場合が多くなっています。
・関節部の指骨骨折(図2):球技で好発し、いわゆる突き指(本来は骨折、靭帯断裂を認めない指関節の損傷です)として放置されたり、骨片が小さく、転位が少ないとレントゲン撮影を行っても見のがされることがあります。以下に代表的なものを列挙します。
・槌指骨折(DIP関節骨折):指先に最も近い関節の骨折です。副子固定では転位を残したり、骨癒合が得られなかったりして屈曲変形や痛みを残します。最近では手術を行う場合が多くなっています。
・PIP関節骨折:手指のまん中の関節の骨折です。手指の関節の骨折ではもっとも治療が難しく、治療がうまく行かないと手全体に与える障害も強いので特に注意して診察、治療を行う必要があります。手術を選択する場合が多い骨折です。
・ベンネット骨折:母指の付け根(手関節のあたり)の部の骨折です。手術治療が必要です。わずかな転位が残っても痛みが持続し、母指の機能障害が残ります。
・ボクサー骨折:母指以外、特に環指、小指の付け根の関節(MP関節といいます)のすぐ中枢に発生する骨折です。必ずしも物を殴った時ばかりでなく、転倒時に手をついて発生することもあります。適切に治療しないとナックルの変形を残し、痛いみの原因となります。時に、関節内骨折の場合があり、その場合は手術治療が必要となることがあります。

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