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スポーツ医科学レポートNO.11


4.アスレティックリハビリテーション
〜ケガしてから何を行うべきか〜


鵜飼 建志
(五ヶ丘整形外科・運動療法センター 理学療法士)

 スポーツ選手や指導者にとって、ケガは最も嫌なものの一つでしょう。 ケガは本来のパフォーマンスを100%発揮することをはじめから困難にしてしまうので、肉体的だけでなく精神的にもダメージを与えます。 試合が近ければなおさらショックは大きいでしょう。 そこで多くの選手・指導者はどうやったら早く治るか、試合に出られる状態に持っていけるかを考えるかと思います。 藁をも掴む気持ちで、医療機関にかかったのに、「レントゲン写真で骨には異常ないから、湿布を貼って安静にして下さい。」と言われても痛くてスポーツ出来なければ何の解決にもなりません。 おそらく、すぐに他の病院か人づてに聞いた評判のいい接骨院か鍼灸マッサージ院などに直行することでしょう。
 しかしながら、いずれの医療機関や接骨院などにかかるにせよ、ここで大切なことは受けた治療や指示などが、目先のことだけに捕らわれず長期展望もしっかり見据えた上での対応になっているか、ということです。 悪魔のささやきは案外耳触りがいいものです。 「大丈夫」とか「すぐ治す」とか言われれば安易に信じたくなる気持ちは分かりますが、そこに根拠や長期展望があるかが大切になります。 もし一旦は症状をとってくれても(ここまでは場合によっては可能)、魔法使いでない限り壊れた組織を一瞬にして元に戻すなんてことは不可能です。なぜ痛みが取れたのかなどについて納得が行く説明を受けた方がいいでしょう。 さらに、解剖学的にどこの組織を損傷してしまったのか、再発しやすいか、今後どうしていくことが望ましいか、などインフォームドコンセントを踏まえて信頼できる相手かどうか判断して下さい。 競技復帰を目指す上で、この医療機関の選択は後々大変重要となります。
 さて、実際ケガをしてしまった場合、まずはRICE処置などの応急処置を少なくとも受傷後30分以内に行います。 そしてなるべく早急にスポーツ外傷に詳しい医療機関へかかり、以後の方針を決定します。 一般に術後療法・保存療法ともにメディカルリハビリテーションから開始します。 つまり患部へのアプローチによる日常生活への復帰です。 主に、除痛、可動範囲の拡大、筋力回復、などです。 同時に患部外もトレーニングが必要で、これはメディカルリハビリテーション期間が長いほど重要です。 なぜなら、この間通常のスポーツ活動ができないので、筋力・筋持久力・全身持久力・柔軟性など身体能力が全身的に低下してしまうからです。
 その後、アスレティックリハビリテーションを行うわけですが、この時、日常生活活動をおくる上で何の支障もないことが最低条件です。 痛みのコントロールや関節の可動範囲、筋力などが不十分な場合はメディカルリハビリテーションを優先すべきです。 スポーツ活動では日常生活活動を超える負荷がかかることを考えれば当然です。
 さて、アスレティックリハビリテーションには大きな二つの目的があると思います。 その一つは、「スポーツ活動(競技)への復帰」です。 したがって徐々に医療機関からスポーツフィールドに近い環境を経てスポーツフィールドへ戻っていきます。 その際、受傷原因となった動作には、ケガをさせる何かの要因が隠されていると考え、対応していくべきです。 例えば、投球障害肩の選手であれば、その選手の投球動作の中に肩を傷める原因が何かあるはずです。 これを見極めるにはかなりの機能解剖学的な知識及び投球動作に対する理解と動作分析能力が必要になります。 肩を痛める原因となった問題のある動作とは何か(肘下がりや身体の開きが早いなど)、その動作を作る原因はskill(技術)の未熟なのか、身体機能の低下なのか、を見極めます。 skillの問題だけであるなら反復練習でいずれはよくなるはずですが、身体機能にも原因があるなら、先にその部分の機能改善をはからなければ、練習すればするほどケガを作ってしまいます。 肩甲骨を安定化する筋力が弱い、下肢筋力が弱い、扁平足など軸足を不安定にする要因があるなどの隠された原因を、投球動作分析からの予測に基づき評価することで、肩という局所だけでなく全身を視野に入れてのアプローチができます。 ここまで出来てアスレティックリハビリテーションのもう一つの目的である「再発予防」が可能となります。(時間的、能力的にここまで指導できる施設はまだ少ないとは思いますが)。
 このような過程を経て、スポーツ動作を再獲得し、アスレティックリハビリテーションは完成していきます。 ずいぶん長い道のりのようにも思えますが、ケガの部位・種類・程度・再発頻度・合併症などにより治癒までの期間は違いますし、選手自身の回復力やモチベーションなどでも変わってきます。 ケガをしてから試合までに充分時間があるならまずしっかり治し、ある程度試合が近いならタイムスケジュールを組んで可能な限りいい状態での復帰を試みる、非常に試合が近いならケガの程度と対応可能な治療範囲・その試合の重要度・再発や悪化のリスクなどを考慮し、多岐に渡る視野から出場可能かどうかを判断する必要があります。 以前、大相撲の横綱が膝のケガをおして本割りと優勝決定戦に出場し、類い希な精神力と気迫でみごと優勝し、ファンだけでなく総理大臣まで感動させたことがありました。 しかしながら、その後の経過をみれば賛否両論あるところだと思います。 外傷後のスポーツ選手をどう復帰させるか、その対応の難しさを考えさせられる一例だと思います。 少なくとも学生・アマチュアスポーツ選手では、あのような無理をしてほしくないものです。

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