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スポーツ医科学レポートNO.11


3.アンチ・ドーピング


牧野 和彦
(岐阜医療技術短期大学)

 国際的なアンチ・ドーピング活動はこれまで国際オリンピック委員会(IOC)主導の下で行われてきた。
1992年2月、IOCは「スポーツにおける薬物使用に関する世界会議」において国際アンチ・ドーピング機関の設置、これと各国政府やスポーツ団体などとの協議のもと統一的な基準に従ったアンチ・ドーピング活動を強化・推進することを趣旨としたローザンヌ宣言を採択した。
 その後、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の設立により、これまでのIOC主導の国際アンチ・ドーピング活動に変化がみられるようになり、各国政府の役割が増大してきた。
 わが国は諸外国と比較してドーピング検査数が極端に少なく、アンチ・ドーピング活動に対する取り組みが遅れているという国際的な批判を受けていたが、2001年9月、ようやく国内調整機関として、財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA:Japan Anti-Doping Agency)が設置された。
 WADAは、シドニーオリンピックにおいて競技外ドーピング検査を実施するとともに、新たな活動として独立
監視人(Independent Observer)システムを導入し、オリンピックにおけるドーピング・コントロールのすべてのプロセスについて透明性確保のための監視を行った。今後JADAの役割もますます重要性が高まるものと思われる。
 ドーピングに関する最近の話題としてはエリスロポエチン不正使用の検出に対して血液サンプルが使用されるようになったことである。これまでのドーピング・コントロールはすべて尿サンプルによるものであり、シドニー大会においてはじめて血液サンプルが用いられた。
 筋肉増強剤としては蛋白同化ホルモンの使用が有名であるが、現在は検出が困難といわれる成長ホルモンの不正使用に対する検出技術の向上が最大の課題である。
 一般のスポーツ選手にとっては故意によらない医師の処方によるドーピングが特に重要と思われる。ルーマニアのラドゥカン選手が風邪薬の服用によるエフェドリンの陽性と判定され、体操競技で獲得した金メダルを剥奪された事件は記憶に新しい。(ドーピングについての一般的な解説については本スポーツ医科学レポートNO.7を参照のこと)
 さらにドーピング・コントロールの規制強化とともに「エルゴジェニック・エイド」と呼ばれるスポーツサプリメント(栄養補助食品)が年々注目されるようになってきた。
 食事で充分に摂取できない栄養素を補充するという目的ではなく、スポーツ競技のパフォーマンス向上を目的とするタイプのサプリメントである。以下、代表的なものについて解説する。

1.分岐鎖アミノ酸(BCAA)
 バリン、ロイシン、イソロイシン等の分岐鎖アミノ酸はトリプトファンの脳への急速な取り込みを抑え、中枢性疲労を防ぐと言われているが、その評価は一定していない。
2.クレアチン
 ATP-CP系に依存する特定の運動、特に反復性で短期間の回復期がある高強度運動に対して有効と言われている。
3.Beta-hydroxy-beta-methylbutyrate(HMB)
 ロイシン代謝の副産物で、筋量を増やし、体脂肪を減らすといわれているが、その機序ははっきりしない。
4.炭酸水素ナトリウム
 アルカリの貯蔵量を増やすことにより、筋細胞からの水素イオンの除去を容易にし、筋細胞の酸性度を低下させ、疲労の始まりを遅延させるといわれている。
5.L-カルニチン
 長鎖脂肪酸のミトコンドリア内への輸送を促進し、長期間の有酸素性持久運動の後半における筋グリコーゲンを節約するといわれているが、評価は一定していない。
6.アルギニンおよびリジン
 アルギニンやリジンは必須アミノ酸で成長ホルモンやインスリンの分泌を刺激し、筋肉量を増加させるといわれているが、評価は一定してない。
7.アスパラギン酸
 遊離脂肪酸の利用を高め、筋グリコーゲンの利用を節約する。さらに血中アンモニアの蓄積を減少させるといわれているが、評価は一定していない。
 およそ生体に影響を及ぼす物質は全て過剰摂取すれば毒となる可能性があり、IOCのドーピング規定の「人工的かつ不正にスポーツ・パフォーマンスを向上させる目的で、ある物質を異常な量摂取する」に抵触する可能性が指摘されている。
 こうした新しいサプリメントを安易に使用しない態度も重要と思われる。

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