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スポーツ医科学レポートNO.11


2.熱中症


宮本 洋通
(朝日大学内科)

 熱中症は突然死とならんで運動中の死亡の大きな原因となる、重要な疾患です。 暑い環境による体の障害で、熱失神、熱疲労、熱けいれん、熱射病に分けられます。
 熱失神は血圧低下、めまい、失神、頻脈、顔面蒼白、呼吸回数の増加、唇のしびれをおこします。 熱疲労は大量の発汗、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気をおこします。 熱けいれんは足、腕、腹部などの筋肉の痛みを伴ったけいれんをおこします。 熱射病は異常な体温の上昇と応答が鈍い、言動がおかしいといった程度から全く反応を示さない昏睡まで種々な程度の意識障害が特徴です。 このうちスポーツで問題となるのは熱疲労と熱射病です。 熱射病はもっとも重症の状態で、運動中の異常に気づかれ、直ちに病院に搬送されたにもかかわらず死亡することもまれではありません。
 熱失神、熱疲労の治療は涼しい場所を選び、衣服をゆるめて寝かせ、水分を補給することです。 吐き気、嘔吐などで、口から水分が摂れない時は医療機関に運び点滴をうけるようにします。 熱けいれんの治療は塩分を含んだ水分の補給をします。 熱射病は体を冷やしながら集中治療のできる病院へ一刻も早く運ぶことです。
 熱中症の発生には、気温、湿度、風速、輻射熱(直射日光など)が関係します。 これらを総合的に評価する指標が湿球黒球温度(WBGT)です。 湿球黒球温度からみた熱中症予防のための運動指針を表に示しました。 湿球黒球温度は一般にはなじみがないでしょうが、それを測定する暑熱環境計は四万円弱で購入できます。
 熱中症をおこしやすい環境、条件として高温、多湿であることは当然ですが、同じ気温では湿度が高いと危険性は高くなります。 急に暑くなった時、夏の始めや合宿の第一日目も起こりやすい条件です。 また、さほど気温が高くなくともおこることがあります。 死亡事故の統計では4月から9月の毎月おこっていますし、発生時刻も午前10時以前から午後6時以降までいずれの時間帯でもおこっています。 事故発生までの運動時間も1時間以内から4時間以上まであらゆる時間帯で発生しています。
 熱中症の予防には次のような注意が必要です。 体調が悪いときは体温調節の能力も低下しているので、無理に運動しないことです。 また、汗によって失われる水分と塩分を補給することで、暑いときに運動する時はこまめに塩分をふくんだ水分、スポーツドリンクなどを補給することです。 運動前後に体重を計ることで、運動中に失われた水分量が分かります。 運動による体重減少が2%を越えないように水分を補給することがすすめられています。 また、毎朝起床時に体重を計ることは、疲労の回復状態や体調のチェックに役立ちます。 衣服は軽装にして、屋外では帽子を着用することです。 防具を付けるスポーツでは、休憩中に衣服をゆるめることがすすめられています。
 運動時に熱中症による死亡事故が発生すると訴訟により指導責任が問われることがあります。 判例をみてみると法的責任が問われる例は、異常があったにもかかわらず運動を続けさせた例や、そのまま帰宅させるなどして十分な救急処置がおこなわれていないものでした。 運動中に異常がみられたら、放置することなく、すみやかに対応することが重要です。 特に少しでも意識のおかしいときは熱射病の可能性があるので、病院へ運ぶ必要があります。 
 日本体育協会は「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(この文もほとんどがそこからの引用です)を作成しています。 そこには熱中症予防8ヶ条として次のようなものを上げています。
1.知って防ごう熱中症
2.暑いとき、無理な運動は事故のもと
3.急な暑さは要注意
4.失った水と塩分を取り戻そう
5.体重で知ろう健康と汗の量
6.薄着ルックでさわやかに
7.体調不良は事故のもと
8.あわてるな、されど急ごう救急処置

 スポーツによる熱中症事故で毎年死亡事故が発生しているのが現状ですが、無知と無理からおこるものであり、防がなくてはならないし、また防げるものです。

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