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スポーツ医科学レポートNO.11


1.スポーツにおける肩の傷害


福田 雅
(岐阜大学医学部整形外科)

【はじめに】
 スポーツにおける肩の障害は、骨折・脱臼などの外傷と反復動作によって生ずる障害と考えられますが本稿では後者について述べたいと思います。
 肩は前身の関節の中で、もっとも大きな可動域を有する関節です。 それは一般的に肩関節といわれる肩甲上腕関節、第2肩関節ともいわれる肩峰下関節、そして肩甲胸郭関節、肩鎖関節、胸鎖関節が複合関節として合目的に機能することによって、180°を越える内外旋、内外転、屈曲伸展での可動域が得られるのです。 この可動域が様々なスポーツのパフォーマンスを作り出すといっても過言ではありません。
 肩の組織的な損傷を一つ一つを揚げればきりがありません。 しかも肩が複合関節として機能しているために、複数の損傷が同時に存在する場合がほとんどです。 こうした損傷が発生した要因は肩のみならず全身の運動連鎖(足腰→体幹→肩という力の伝達)の中で、肩が十分な機能を発揮できなかった結果と考えるべきでしょう。 従って手術が必要となる場合でも、その前後で機能的な損傷をいかに回復するのかが重要となります。

【複合関節の機能障害】
 肩の外転(水平挙上)時には上腕骨の外転角度と肩甲骨の外転角度が2:1となります(上腕肩甲骨リズムと言われています)。 この時にはインナーマッスル(腱板筋群)によって上腕骨頭が肩甲骨の関節面で回転し大結節が肩峰下に入り、三角筋によって上腕が挙上され、同時に肩甲骨は僧帽筋と前鋸筋によって外転しつつ胸郭上を前方外側へ移動します。 肩甲骨の安定化には前方から小胸筋、内側あるいは上内側へ菱形筋、肩甲挙筋も働いています。 こうした筋肉の共同運動(リズム)が崩れると肩の機能に十分なパフォーマンスが得られず障害の原因となります。
 その予防・治療においては、やみくもなウェイトトレーニングは逆効果です。 大きな負荷はアウターマッスルを働かせますが、例えばインナーマッスルによる上腕骨頭の回転が不十分な時にアウターマッスルである三角筋による挙上が起これば大結節は肩峰と衝突し肩峰下の障害を起こします。 これが続けば腱板そのものも傷害されます。 リズムを回復させるように必要な筋肉を鍛えた後に、全体の筋力アップを図る必要があります。

【運動連鎖での障害】
 投球を例に考えてみます。 投球フォームで「からだの開きが早い」というのは、よく耳にする言葉です。 投球時の非投球側(左とします)の足が接地したとき骨盤に対して上部体幹(両肩を結んだ線)の回旋角度は平均27°遅れて出てきます。 また、肘の位置は両肩を結んだ線上にありこれはサイドでもアンダースローでも体幹の側屈角度が違うだけではほぼ同じです。 この時、右手の軌跡をみるとその回転中心は右肩ではなく左肩にあることがわかっています。 「からだの開きが早い」というのは上部体幹が骨盤に遅れることなく投球方向を向いた状態で、肘が後に取り残され「腕投げ」となったものです。 この時の回転中心は右肩となります。 投球時の肩の回転速度は6000〜8000°で、1秒で秒針が20回前後も回転する速度ですから、全身からの力の伝達が十分でない状態で投球を行えば、回転中心の右肩のみにかなりの負担がかかり障害の原因となるわけです。
 幾つかの例をあげます。 軸足の捻挫の後などは足関節の回内を生じやすくなります。 これにより軸足上で身体は前に倒れ、体幹も十分な回旋ができないまま投球が開始されます。 最初に体幹の回旋が不十分なわけですから当然身体は開くことになります。 股関節の内転障害があっても軸足に体重を乗せられず同様です。 また左腕を畳むのに上部体幹が連動して動くので、これが早くなれば身体は開きます。 左肩の腱板筋力が弱ければ左腕を挙上位に保持しきれず、10〜100分の1秒早く左腕が下がり始めることで身体は開くわけです。疲れてきたときに身体が開きやすくなるのは投球側に比べ非投球側の肩周辺の筋力が弱いために起こりやすいのです。
 従って、開きが早いからといってステップをクローズドにする、左肩を内に入れるといった指導は誤りです。原因を改善することなくフォームを変えようとすれば、必ず無理をかけて障害を起こします。

【終わりに】
 肩の障害の原因をどう考えるべきか、紙面の都合もあり総論的な見解を述べさせていただきました。多くのスポーツは手を使って行われます。 手などの末梢方向への運動は全身の各関節のエネルギーを連動して加算していくものです。 肩の症状のみにとらわれない原因の究明が必要です。 その治療過程においては組織損傷については医師が、関節機能障害については理学療法士やトレーナーが、スキルの不備についてはコーチなどの指導者が、競技者のスポーツ復帰に関わる治療チームとして機能するのが理想です。 さまざまな障害についての治療法は指導者を含めて医師と相談することをお勧めします。

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