トップ>スポーツ医科学レポートトップ

スポーツ医科学レポートトップ

スポーツ医科学レポートNO.10


5.運動が「できる」こと


原田 憲一
(岐阜大学教育学部)


1.動物の運動
 人間よりも他の動物の方が、はるかに自身の身体よりも効率のよい運動や巧みな運動をする場合があります。動物の運動は、生物としてこの環境世界の中で生存するために、種としては繁殖、個としては摂食を中心とした生き延びるのに必要な生活行動運動であるといえます。動物は一般的に人間よりも脳が発達していませんから、いわば自動的に生きることに対して合目的的な行動ができるようになっているのです。動物の身体そのものが、生存している自然環境の中で、生きることに必要な行動ができるような身体の構造を持っているからです。動物の運動は、環境世界と生体構造の関係の総和であるといえます。
2.人間の運動
 人間の運動行動も、他の動物と同様に、生きることに対して合目的な運動であるといえます。人間は環境に応じて、生存しやすいように適応できる運動を身に付けています。しかし人間は社会、文化、文明を形成し、環境世界の側の方を変化発展させてきました。その恩恵で人間の行動範囲も広がりましたが、その半面人間自らの身体の運動能力も制限されることになってしまっています。文明化されるほどそれは顕著です。
 他の動物と比べて、人間の場合は生まれながらにして動けるかというと、そうではありません。人間は早生動物といわれ、摂食行動であれ生活行動であれ、人が人として生きていくには、約1年間以上の親の保護と世話が必要であると言われています。先天的に備わっているものではなく、親や大人の保護のもとで後天的に学習し獲得していかなければならないのです。その学習する環境世界は現実の文明かされた社会で、さらに保護された環境であります。
3.できるようになること
 スポーツ運動の発生をたどると労働や生活様式を原形とする運動形式が多くあります。しかしスポーツ行動は生活行動と直接関係がなく、余分な自由な活動であるというのが現代の解釈です。現在のスポーツ運動は日常の生活行動の運動ではありません。そうなると生活行動と直接的に関係の少ないスポーツ運動をあらためて学習する必要があります。
 運動が「できる」ことに関していうと、必要なのは運動をする人の身体的や精神的なものなど一切を含んだ人間的能力であるといえます。そして運動は、状況としての自然的や社会的なものを一切含んだ環境世界で行いますから、個人の能力が環境世界とその関係に応じた必然の結果として運動が生じることになります。運動者が環境世界とどういう関係の仕方をしているのかという問題の帰結になります。
 高度な運動が「できる」ようになるには、運動者の身体能力を高めること、運動を行う状況として環境世界を整えること、そしてその運動を必然とする関係の仕方を結ぶことが必要になります。それぞれに意図的な工夫と努力が必要ですが、着目しておきたいのが身体能力です。それは運動者の閉じられた単体側の問題ではなく、知覚や判断など環境世界と関係付ける能力も含めて考えなければなりません。状況に応じて運動が成り立つような関係付けが出来得る能力の開発が最も必要になってくると思います。ところが、運動者と環境世界との関係の仕方はかなり恣意的で、常にうまくいくとは限りません。それを意図的に作り上げるのは非常に難しいと思います。