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スポーツ医科学レポートNO.10


2.スポーツにおける首の傷害
ーコンタクトスポーツにおいて−


宮本 敬
(岐阜大学医学部整形外科学教室)

【はじめに】
 スポーツにおける首(頚部)の傷害について、
(1)外傷の代表例である頸椎・頸髄損傷
(2)障害(慢性外傷)例としてコンタクトスポーツにおいてしばしば見られるバーナーペイン(Burner's pain)
それぞれについて述べます。

【頚部の基礎知識】
 首は頭部と体幹を連結する場所ですが、前方には気管、食道、太い血管が、そして中央には脊椎の一部である頸椎(けいつい)があります。頸椎には7個の椎骨(ついこつ)からなりますが、頭の重みをささえる柱としての役割、脳からの情報の通り道である頚髄(けいずい:脊髄の一部)のいれものとしての役割があります。

【頸椎・頸髄損傷】
メカニズム
 我々がきょろきょろと頭を動かすことができるのは、頸椎を構成する7個の椎骨の間に動きが備わっているからです。動きがあるがゆえに、大きな外力が加わると椎骨どうしがずれたり(脱臼)、つぶれてしまったり(骨折)します。これらを頸椎損傷と言いますが、その多くは頸椎のなかを通る頸髄の損傷を伴います。ラグビーでスクラムが崩れたり、タックルに逆の頭から入ったり、あるいは水泳の際に浅めのプールに飛込んでプールの底で頭をぶつけたりした時に発生します。
症状
 首の痛み、上肢や下肢のしびれ、麻痺(動きが悪い)が生じます。症状が下肢に及ぶことが特徴的です。一般的に、意識が正常なことが多いのが、脳の損傷との区別になります。
現場での対応
 受傷後、不用意にくびを動かすと、損傷した頸椎がさらにずれて症状が悪化することがあります。ですから、救急車を呼んだうえで、グランドでは頚部を絶対に動かさないようにし、で切るだけ多くの人員で抱きかかえて搬送することが大事です。この搬送法をall in one piece(体全体をひとつのもののように抱える)といいます。
治療・予後
 病態に応じて、手術治療や保存的治療(手術以外の治療)が行われます。意欲を持ってリハビリテーションに取り組むことにより、様々なゴールまでたどり着くことは可能です。ただし、重傷例ではスポーツ選手生命どころか社会的生命まで絶たれてしまうことがあります。
スポーツ現場で普段から気をつけること
 選手・指導者の双方が正しい知識を身につけること、正しいプレーを指導・習得することが重要です。あまりにも、実力・体力差のある者どうしのコンタクト、疲労が蓄積した状態でのコンタクトなどは避けるべきです。ただし、やみくもに恐怖感を持たせることはかえって危険で、正しく行えばコンタクトプレーも楽しく安全であることを強調すべきでしょう。

【バーナーペイン】
症状及びメカニズム
 ラグビー、アメリカンフットボール、相撲などにおいてコンタクトプレーの際に頚部や肩に衝撃が加わった際に頸部から上肢にかけて生じる電撃痛、焼けるような(burner)痛み(pain)をバーナーペインといいます。もともとは英語の言葉で、アメリカンフットボール選手の中にこのような症状を訴える選手が多かったこともあり命名されました。程度の差こそあれ、発生頻度の比較的高いバーナーペインという言葉は症状を指した言葉ですが、その原因としては、
(a)頚椎椎間板ヘルニア(頚部の椎間板が後方に脱出して神経を圧迫する)
(b)腕神経叢(わんしんけいそう:頸髄から分かれて腕につながる太い神経)が衝撃により延ばされる、あるいは圧迫される。
(c)頚部の脊髄神経根(神経の枝)の椎間孔での刺激(頸髄から分かれる神経の細い枝が椎骨の間ではさまれる)
などが考えられています。通常は症状が短期間で消失するごく軽いものが多く、症状が持続することは少ないとされています。ただし、神経が刺激される症状がゆえに合併する症状は多彩です。著者らは全国高等学校ラグビーフットボール大会(1998年12月)出場選手全員(1261人)に対してくびの症状に関する調査を行いましたが、バーナーペインを経験したことのある419人(33.2%)において、神経の症状は様々でした(図1)。ポジション別では、プロップ、フランカーと、コンタクトの多いポジションに発生が多い結果でした(図2)。
治療・予後
 適切な診断さえつけば、リハビリテーション、プレースタイルの改善、肩甲骨周囲の筋力アップ等で克服できるものが多いとされています。重傷な頸椎椎間板ヘルニアなど手術治療が必要な例は非常にまれです。
スポーツ現場で普段から気をつけること
 正しいコンタクトプレーを指導・習得することが重要ですが、頚部や肩甲帯の筋群を日頃から鍛えておくことも重要です。これが安全で楽しいコンタクトプレーにつながります。バーナーペインの多くは一時的な症状であることから、医療機関を受診するスポーツ選手が少ないのが現状です。早期発見早期治療が必要な場合もあり、症状が続く場合もあり、症状が続く場合は整形外科医師の診察を受けることが必要です。


【おわりに】
 スポーツにおける首(頚部)の外傷及び障害についての基礎知識を述べました。